
夫婦関係が、もう限界に近づいています。
妻は何かあるたびに感情的になり、夫に強い言葉で文句をぶつけてくる。夫も最初のうちは我慢していたけれど、何度話そうとしても話し合いにならない。「もう無理かもしれない」「この人とは一緒にやっていけない」そんなふうに、離婚まで考えるようになっていました。
こういう話を聞くと、多くの場合、「奥さんとどう話し合えばいいだろう?」「夫婦関係は改善できるか?」という方向に話が進んでいきます。もちろん、それも大切です。でも、目の前の相手だけを見ていても、なかなか問題の本質が見えてこないことがあります。
その男性の話をもう少し聞いていくと、子どもの頃のお母さんとの関係が出てきました。お母さんも、感情的になると一方的に言葉をぶつけてくる人だったそうです。何か言い返しても、こちらの話を聞いてもらえない。説明しようとしても、ますます怒られる。だから子どもの頃から、「何を言っても無駄だ。黙るしかない。時間が過ぎゆくのを待とう」とすることが習慣になっていました。そんなふうにやり過ごしてきました。
この男性の、母親との関係と、妻との関係は似ています。
なので、妻が感情的になると、目の前にいるのは妻なのに、心の奥では、子どもの頃と同じ反応が起こるのです。「また話が通じない」
「何を言っても無駄だ」「もう逃げたい」男性は、妻がお母さんと同じ人だと思ってはいません。けれでも、同じ反応をしてしまうのです。
人は、過去に何度も経験した状況に出会うと、今の出来事だけではなく、昔感じた気持ちまで一緒に反応することがあります。すると、目の前の出来事以上に苦しくなったり、急に何も言えなくなったり、限界まで我慢したあと、一気に関係を切りたくなったりします。
この男性の場合は、「感情的な人がいる→話しても無駄だと思う→黙って耐える→限界になる→もう関係そのものを終わらせたいと思う」という流れが、子どもの頃から続いている可能性があります。
私はこれを、「同じような人を引き寄せる」とだけ捉えるより、自分の中にある同じ反応パターンが、別の人間関係の中でも繰り返されると考えた方が、わかりやすいと思っています。
では、過去を見ることで何をするのでしょうか。母親を責めるためではありません。まずは、「あの頃の自分は、こうするしかなかったんだ」と当時の自分を認めることが大切だと思います。子どもの頃は、母親から逃げることも、冷静に境界線を引くことも、簡単にはできません。黙って耐えることが自分を守るための方法だったと思うのです。
そのことに気づくと、今、大人になったとき、他の方法選択肢を持つことが可能です。「その言い方では話を続けられない」「落ち着いてから、もう一度話したい」「あなたの気持ちは聞くけれど、その言葉までは受け取れない」
過去を見る意味は、過去に戻ることではなく、今まで無意識に繰り返してきた反応から、自分を自由にすることだと思います。また、親との関係を見ることは、親に原因を求めるためではなく、目の前の相手に反応している「今の自分」が、どこからできてきたのかを知るためです。
そこが見えてくると、妻と関係を続けるにしても、離婚するにしても、「耐えられなくなったから」だけではない選択ができるようになります。そして、それこそが、同じ人間関係を繰り返さないための大きな一歩になるのだと思います。