先日、吉田ソースの創始者・吉田潤喜さんご夫妻とご一緒する機会がありました。
お二人が並んで話している姿を近くで見ていると、胸の奥がじんわりあたたまるような、そんな不思議な時間になりました。
吉田会長が奥様へ向ける言葉には、ひとつひとつにやさしさがにじんでいて、まるで焚き火のそばにいるみたいに、周りにいる私たちまであったかくなる。
そして奥様のまなざしがまた特別で、会長の顔を見るその目は、少女が好きな人を見上げる時のように澄んでいました。
長く連れ添った夫婦だからこそ出せる落ち着きと、付き合いたてのカップルのような新しさが、不思議と同時に存在していたのです。
会長はとてもお忙しい方なので、お話の途中には仕事の話も出ます。
でも、仕事の話が一区切りすると、すぐに意識が奥様に戻る。
「あなたが一番大事だよ」と言葉にしなくても伝わるような、あの静かな向き合い方が、見ているこちらをほっとさせました。
その姿を眺めながら、ふと考えました。
私たちの日常の中で、こんな“まっすぐなまなざし”を最後に向けてもらったのはいつだっただろう、と。
家庭という場所は、不思議なほどに「慣れ」がたまっていきます。
最初はときめきでいっぱいだったはずなのに、気づけば
「家事をこなす相手」
「生活を回す相棒」
そんな役割だけが前に出てきて、本当の気持ちを見つめ合う時間が消えてしまうことがあります。
例えば、夕食のあと。
夫はテレビ、妻は洗い物。
同じ部屋にいても、心は別々。
お互い疲れているからこそ話したいはずなのに、言葉を飲み込んでしまう。
気持ちが遠くなるのは、いつも“ほんの少し”の積み重ねです。
ある女性はこう話してくれました。
「たまには夫に“今日はどうだった?”って聞いてほしいんです。ただそれだけで自分が見えている気がするから」
別の女性は言いました。
「夫婦って、怒らないと話を聞いてもらえない時がありますよね。あれが本当に悲しい」
そのたったひと言の寂しさに、多くの人がうなずいていました。
吉田ご夫妻の雰囲気がすごいのは、特別なことをしているからではありません。
“ふたりの心を、毎日すこしずつ温め続ける”
その積み重ねを、長い年月ずっと絶やしていないからこそ生まれるものだと思います。
奥様が少女のような目で会長を見ることができるのは、
「この人は、私を見てくれる」
という安心が根っこにあるから。
安心があるから、やわらかくなれるのです。
そして会長がプライベートの時間に、意識の向きをすっと奥様に戻せるのは、
「そばにいてくれる存在への敬意」
を忘れないから。
家族であっても、夫婦であっても、当たり前にはしない。
その姿勢こそ、関係を育てる栄養になっているのだと感じました。
夫婦の関係は、劇的な変化では育ちません。
大事なのは“今日の3分”。
たった3分、相手の目を見て「おつかれさま」と伝えるだけで、応えてくれる心はびっくりするほど変わります。
吉田ご夫妻のような深い安心感は、一足飛びにはつくれません。
でも、小さな火種を守るようにそっとあたため続ければ、ふたりの間にまた光が戻ります。
今日、家で顔を合わせるその瞬間。
その3分が、夫婦の未来を静かに変えていくのだと思います。